風邪の子どもにつきあって、一日をベッドですごす。夏の終わりは、季節のあとかたづけで忙しい。窓のそとでは、夏のあいだに伸びきった草を刈る、草刈機のエンジンの音がひびく。ときどきステンレスの刃が石をかむ。草の汁を濃縮した匂いが、窓から流れこんでくる。音に香りにざわついて、子どもはなかなか眠れない。
ぎゅっとしぼりあげたような青々しい草の香りは、大人になってから好きになった。夕立のあと、アスファルトの道路からたちのぼる、埃まじりのもあっとした水蒸気の香りも、大人になってから、そのよさに気がついた。歳をかさねるにつれ、記憶や思い出もつみかさなり、ずっと身近にあったもののよさや魅力に気がついていく。さわがしい残暑のなか、いつの間にかぐっすり眠っていた。
午後になってすっかり目が覚めた子どもは、ベッドのうえで元気に飛びはねている。熱がさがりきっていないので、夕食はうどん。明日のご飯は何にしようか、こんな時でも食べものの話ばかりしている。自然栽培の野菜や、しんわルネッサンスさんのトマトピューレ、お腹をこわすまで夢中で食べつづける子どもの姿を見ていると、ていねいであることや、純粋であることの大切さを思い知らされる。いつの間にか、ずいぶん日もかたむき、のそのそと夕食の準備にとりかかる。