2017.08.18

くせの味わい

 くせのあるものに魅かれる。くせのある人、くせのある物語、くせのある食べ物。くせの棘にひっかかり、ついふらふら追いかけてしまう。

 淀みのないまっすぐな眼をしている人よりも、自分の内面にかかえたやっかいな何かに向かってあがらう眼をしている人に魅かれる。夢に向かって懸命にがんばる物語よりも、ひねくれた奇妙な人たちが登場する物語に魅かれる。苦味やえぐみを少し残した食材や、香りや個性の強い食べ物に魅かれる。特に、体の調子や気持ちが落ちているときに、体がくせのあるものを欲する。

 知り合いの自然農法の農園で採れたにんじんは、味と香りがとにかく強い。それなのに、不思議と子どもがよく食べる。普段はピーマンやほうれん草ですら嫌がって食べないのに、この荒々しい野菜は好んで食べる。茶葉丸をはじめていただいたとき、茶葉をそのままつかっていて苦味が強いので、お子さまは苦手かもしれません、と言われた。ところが、こちらも親の分け前までうばういきおいで食べる。

 体が必要としているもの、足りないもの、力になるものは、体がよく知っていて、おいしさやうれしさで教えてくれる。くせを追いかけると、きちんとおいしさにぶつかる。くせはおいしさにつながっている。

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